テレビから流れてくる、やけにテンションの高い声で、私は目を覚ました。どうやら年が明けたらしい。
寝ぼけ眼で起き上がると、まだ皆寝ているようで、部屋は静まり返っていた。
昨夜の宴会のせいで散らかった部屋を見渡して、私はげんなりとした。どうせ私が片付けなきゃならないのだろう。
・・・ああ、役職は決して下っ端じゃないのに、なんだってこんな役回りなんだろう?まぁでも山崎さんはもっとひどい扱いを受けてるので文句は言えないけど(彼の方が役職が上だ)

ゴミを拾いながら縁側まで出てみると、副長が紫煙を燻らせていた。
「あ、副長。明けましておめでとうこざいます」
「・・・おう、か。おめでと」
副長はこっちを一瞥して、またうなだれてしまった。
「昨日の酒が抜けませんか」
「いや、俺は飲んでねェ」
「んじゃマヨ欠ですか」
「それは買い置きがあるから心配いらねェよ」
「じゃあどうしたって言うんです?新年早々」
私が隣に腰掛けると、副長は煙草の火を消し、大きな欠伸を一つした。
「寝てねェんだよ。さっきまで仕事してたから」
「え、マジすか!お疲れ様です」
「おう・・・・・・・・・あー、悪ィけど30分位したら起こしてくれねェか。部屋戻って寝る」
「わかりました」
副長はだるそうに頭を掻くと、立ち上がって障子に手をかけた。

   その瞬間、何かが障子を突き破ってきた。その鋭利な物体は、土方さんの髪を掠めて、庭の塀へと突き刺さった。

「・・・・・・え」
驚きのあまり、二人で固まっていると、障子がすぱんと開いた。
「その必要はねェぜ。俺が今ここでコイツを永遠の眠りにつかせてやらァ」
「・・・沖田さん」
沖田さんは庭に降りると、刀を塀から抜き取った。
「テメ総悟危ねェじゃねーか!当たったら死ぬぞ!」
「当たり前でさァそのつもりで投げたんだから」
そしてこちらに向き直ったかと思うと、その刀をまた、投げた。
「だァァァだから何で投げんの!俺を殺りたいなら正々堂々勝負しやがれ!」
「わかってねーなァ土方さん、今のは俺なりの愛してるのサインでさァ」
「・・・、総悟とだけは付き合うな。アイツの愛は鋭すぎる」
「あは、は・・・胆に命じておきます」

土方さんはああ言ったが、私はおそらく沖田さんどころか、誰とも付き合わないんじゃないかと思う。そんな余裕も無いし、そんな軽々しいことなんて出来ない。
今のまま、私の大好きな、家族みたいな人達と、楽しく過ごして行きたいななんて、思ったりする。

「さ、そろそろ行きますぜィ」
「行くってどこに」
「とうとうボケやしたかィ?初詣でさァ」
「あー・・・そうだったな」
「あ、そっか!」
もかィ」

すっかり忘れていた。ゴミ拾いなんてやってる場合じゃ無いじゃないか!
慌てて広間に戻ると、みんなもう準備を終えて集まっていた。(勿論ゴミはそのままだ)
帰って来たら掃除か・・・こんなことなら年末に大掃除なんかするんじゃなかった。
私は小さく舌打ちをすると、自室へ向かった。






   ん、何か騒がしいな。事件か?」
参詣者の列に並んでいると、土方さんが遠くの方を見て言った。
そちらに目線を移せば、確かに何だかざわざわしている。
「えー、元旦から仕事なんて嫌ですよ私。沖田さんもそう思いますよね?」
「そりゃ勿論。仕事なら一人でやれ土方コノヤロー」
「んだとコラ」
いつもの如く言い合いを始めた二人はそのままにしておいて、一足先にお参りを済ませた私は騒がしい方へと足を進めた。
酔っ払い同士の喧嘩とかそういうのじゃないといいけど。

   オイオイ、このおみくじ大吉入ってねーんじゃねーの?何だよ中吉って。普通すぎてリアクションしづれーよ」
「何ですかその若手芸人みたいな絡み方」
「おま、リアクションナメんなよ?コレの良し悪しでこれからの芸人人生ガラッと変わってくんだぞ」
「アンタ芸人じゃないし!それより僕のは、と・・・あー、小吉か」
「引く人がアレだから、おみくじもぱっとしねーな」
「変に伏せるぐらいならはっきり地味だって言って下さいよ!」
「・・・私、大吉じゃないネ」
「あ、神楽ちゃんもダメだったかー・・・って、アレ?大吉じゃん!」
「何言ってるネ新八、私は大吉じゃなくて神楽アル。やっぱバカは年が明けてもバカだな」
「バカなのはお前だァァァ!大吉ってのは名前じゃ無いから!コレおみくじだから!」
「オイ小吉、声でけーよ。そんなんだから新八なんて引くんだよったく」
「そうネ小吉。さっさとその新八枝にくくりつけてこいヨ」
「新八と小吉逆ゥゥゥ!」

騒ぎを作っていたのは、やっぱりというか何と言うか・・・・私の大好きな人達だった。
年が明けても全然変わらないな、あの人達は。
少し笑って、私はうるさい人達   万事屋の3人のところへ向かった。

「あけましておめでとうございます、皆さん。元旦から賑やかですね」
さん!あけましておめでとうございます」
「あめおけアル、!」
「あけおめ、な。なに、銀さんに会いに来てくれたの?愛を感じるなーオイ」
「いえ、別にそういうわけじゃ」
「・・・・・・」
銀さんが明らかにイジけたような顔をしたが、それはあえてシカトしておく。
「アレ、そういえば真選組の皆さんと一緒じゃないんですか?」
「一緒だよ。今あっちでお参りしてるはず」
「あ、そうなんですか」
言いながら境内の方を見ると、新八くんは呆れたような顔をした。
「・・・まあやってるっちゃやってますけど・・・あの人らお賽銭と枕の区別ついてないよ絶対」
「え?」

そっちを見やれば、賽銭箱の前ではまるで修学旅行の夜さながらの熱戦が繰り広げられていた。
いや、むしろ自分らが騒ぎ起こしてんじゃん。我が上司ながら恥ずかしすぎて斬りたくなる。
・・・いや、言い過ぎた。半殺しにしたくなる。

「まるでダメな男どもがいるネ。マダオアル」
「そうだぞー?あんな大人にだけはなっちゃいけねーよ」
「銀さんは何の抵抗もなく仲間入り出来ますよ」
「うるせーぞ末吉」
「さっきより悪くなってる!」

5円玉が見事に山崎さんのおでこに命中したところで、賽銭投げはお開きとなった。
倒れている彼は放置で、皆ぞろぞろと出口に向かって歩き始めた。

「あ、私そろそろ行かないと」
「えーもう帰るの?一緒に甘酒飲もうぜ」
「そうしたいのは山々なんですが・・・」
今日の副長は寝不足なこともあってきっと機嫌が悪いに違いない。団体行動を乱すなんてことがあれば、私は間違いなく切腹を言い渡されるだろう。
「いーじゃねーかー。正月ぐらい仕事忘れてパーっとやろうぜ」
「いえ、問題なのは仕事じゃなくて・・・・副長が・・・・」
「俺が何だって?」
「げ」

真後ろから聞こえた声は間違いなく副長のものだった。

ああ、もうダメだと覚悟して振り向くと、意外にも彼が睨んでいたのは私ではなかった。
「騒ぎの原因はやっぱりテメェらか。よほどお縄にかけられたいらしいな」
「正月にテンション上がんのは当たり前だろーがよ。てかテメーこそ何?不機嫌そうな顔しやがって。マヨ切れですかコノヤロー」
「だっからマヨは買い置きしてあるっつーの!」
副長は大きく溜息をつくと、袂の煙草に手をかけた。
一本取り出したところで何かに気づいたのか顔をしかめると、それをまた戻す。
「・・・おい、もう用事は済んだろ。さっさと帰んぞ」

なるほど、寝不足に加えて煙草が吸えないわけか。そりゃ早く帰りたいだろう。
私は頷いて歩き出そうとした。が、それは沖田さんによって遮られた。

「何言ってやがんでィ土方さん。まだベビーカステラ食ってねーのに帰れやせんぜィ」
「じゃあ早く買ってこいよ」
「そういや綿飴も人形焼も食ってないし射的もまだでさァ」
「テメェは神社に住め!」
「お、珍しくお許しが出やがった。行くぜィ山崎」
「はいよっ!」
「誰がんなこと言ったよ!?おいお前ら、ちょ、待てっつーの!」

副長の怒鳴り声も空しく、隊士のほとんどが散り散りになってしまった。
見回せば、今ここには副長と銀さんと私しかいない。(新八くんたちもさっきの流れに乗じてしまったようだ)
従順な部下ならば、私達だけでも先に帰りましょうかと申し出るのが筋なのだろうが、生憎私はどちらかといえば沖田さん寄りだ(別に殺意を抱いたことはないけれど)
ということで。
・・・・気の毒だとは思うが、私もこの流れに便乗することにする。

「副長、私も甘酒飲んできてもいいですか?」
「あ?お前もかよ」
「んだよー!やっぱ銀さんと一緒に飲みたかったんじゃねーか」
「いや別にそういうわけじゃ」
「・・・・・・」
しゃがみ込んだ銀さんを横目で見ながら副長はため息をついて、俺は先に帰るから好きにしろよと言った。もう右手は袂に差し入れられている。誰もいない屯所へ帰って、一人で一服するつもりなんだろう。
そうはさせるものか。正月に一人でいるなんて、そんな寂しいことさせるわけにはいかない。
私は唐突に、副長の右腕と、懲りもせずにまだ思いっきり落ち込んでいる銀さんの左腕を掴んだ。
?」
「ちょ、なに
「3人で行きましょうよ。ね?」

私がそう言うと、2人はまるで打ち合わせでもしていたかのように全く同じタイミングで、ものすごく嫌な顔をした。

「えーなんで?銀さんと2人がいいんだけど!」
「万事屋もそう言ってることだし、それでいいじゃねえか、な?俺煙草吸いたい」
「ダメです。3人で仲良く楽しく飲みたいんです」
「そう言われても、俺マヨネーズの匂いさせてる人とは同席できないアレルギー持ちなんだよねー」
「俺も天パの人と同席するとじんましん出る体質なんだよねー」
「私が間に座れば大丈夫ですよ」
駄々をこねる二人の意見など毛頭無視で、さあ行きますよと私は歩き出した。
抵抗の意志を露にしていた彼らも、私の頑なな態度にもはや無駄だと悟ったのか、大人しく歩き始めた。そして私に話しかけるのをやめて、今度はお互いの悪口を言い出した。

   言うまでもないが、それがちょっとした喧嘩になるまでに、そう時間はかからなかった。

「・・・テメェさっきから聞いてりゃ好き勝手言いやがって・・・。おいマヨラー、目の前でマヨ踏んづけてやろうかコノヤロー」
「んだと!んなこと言ってっと目の前でパフェ厠に流すぞコラ」
「んなことしやがったらテメェの煙草全部水溜りにぼちゃんすんぞ!」
「それホントにしやがったら天パ頭にさらにパンチパーマかけてやる」

頭の上で繰り広げられる小学生並みの悪口合戦を聞きながら、この調子なら今年もお願いが叶いそうだなんて思って、ちょっと嬉しくなった。
勿論、人生なんて何が起こるか分かったもんじゃない。特に私の職業なんてそうだと思う。
「絶対」なんて言葉は、間違っても口には出来ないけど、でも。

「ちょ、何笑ってんの!」
「いや・・・お二人とも、外見はおじさんの一歩手前なのに、喧嘩の仕方は子供みたいだなと思って」
「一歩手前って言うな!俺はまだお兄さんでいけんだろ。この白髪は知らねーけど」
「人を見かけで判断すんじゃねーよ!俺の心はいつだって少年のままだっつーの」
「それ、一番マズイタイプですね」

うん・・・多分、今年もこんな風に明るく賑やかに過ごしていけるに違いない。きっと、みんなで。












なんだかんだで年の初め


に願うことはいつも同じ


今年も大好きな人たちと一緒に、元気に楽しく過ごせますように












捧げてはいけない出来上がりになりましたどうしようううう
ひ、開き直るしかない!これが私に出来る精一杯です
というわけでみかどさんに捧げます
2008/01/01