部屋は、がらんとしていた。











一つは、新八と神楽が買い物に出掛けていたからで、
もう一つは、布団が干されていたから。
・・・だと、俺は思っている。
は、ジャンプを片付けたからだと言った。まるで母親のような表情を浮かべていた。

「なあ」
「んー」
「ほんとに行くの」
「もちろん」

ソファーから頭だけ持ち上げてを見てみる。は笑顔だった。

「こんなかっこよくて素敵な恋人を置いて」
「えーっとごめん、見当たらない」
「目の前」
「ニーサンしかいないけど」
「にーさん?」
「ニートのオッサン」
「・・・俺まだそのどっちにも属してないから!辛うじて」

の笑顔がより深くなった。ああ、そういやこっちが本当の顔だと納得する。
多分、本当の。

「銀時や皆は大事だけど、他の世界だって見てみたいわけ」
「俺らだけじゃ役不足ってか?」
「そういうわけじゃないけど」
「わざわざそんな遠いとこ行かなくてもよ」
「自分を試すんだから、ある程度の距離を置かないと」
「なるほど」

そういや、過去にもこんなことあった気がすんなァ。
誰かが俺に夢を語って、俺はそれを黙って聞いて。
最後に頑張れよと言ってやったら、そいつは俺の目を見てありがとうと言った。
なんとなくだけど、あいつの視界に俺は映ってない気がした。
それ以来、そいつとは会ってない。どこで何してんだか、くたばっちゃいねーだろうけど。

だから今、俺はの目が見れない。
もしも、が・・・・・・・・・もしも。

「・・・・・・んじゃ、そろそろ出るね」
「え、あいつら帰ってくるまで待ってろよ。見送りするっつってたろ」
「そういうの苦手だから。それに昨日送別会してもらったし」
「ぜってー怒るぞ」
「電話するから、許して」
「なあ」
「・・・なに?」

お前、いつかちゃんと帰ってくんの?
私物置きっぱなしにしてるってのは、期待していいっつーこと?

「・・・・・・頑張れよ」

聞きたいことが聞けないどころか、頭さえ上げられなかった。

はありがとうと小さく言うと、居間を出ていった。
もしかしたら最後かもしれないわけだから、顔ぐらい見とくべきだったと後悔するが、もう遅い。
俺は目を閉じて、の顔を思い浮かべた。
その瞳に、俺は。

「・・・ねえ、銀時」

遠くからの声が聞こえる。おそらく玄関だ。

「・・・あー?」
「布団、忘れず取り込んでね」
「へいへい」
「・・・・・・私が」
「は?」

「私が帰ってきてもまだあったら、承知しないから」

ちゃんと取り込んでよね、ともう一度念押しして、は出ていった。

「・・・マジでか」

俺は慌てて外に出た。はちょうど階段を下り終えたところだ。

ー」
「ん、あれ、銀時?」
「銀さんいい子で待ってるから、土産奮発しろよ」

は目を丸くした。が、それはすぐに笑みへと変わった。
俺が思うに、やっぱりこれがの本当の笑顔だ。

「まかせといて」








部屋に戻ると、やっぱり中はがらんとしていた。
がいなくなって、それは更に色濃くなったが、不思議と淋しさはなかった。

「布団、どうすっかな」

いっそ本気で干しっぱなしにしとくのはどうだろうか。他にも布団あるし。
とてもいい考えだと思ったが、新八に怒られそうだからやめた。

「とりあえず・・・あいつら帰ってくるまで寝るか」

何故かやけに気分のよかった俺は、すぐに眠りに落ちた。






おかえり を 準備して


新八と神楽に一回ずつ、そしてもう一回は 







2008/01/20