正直、書き方とかよくわかんないんで、 きっとあたしが一生言わないだろう言葉だけズラズラ並べようと思います。 まぁ、飽きたらそこで捨てちゃってくれて構わないんで、暇つぶし程度に読んで下さいよ、副長。 拝啓 土方十四郎様 とか書いといてなんですけど、拝啓ってこういう風に使うんであってるんですか? 手紙なんて、書いたことないので、よくわかりません。っつーか、報告書だってまともにかけない奴が、どうやって手紙書けばいいんですかね、本当。 アイツが手紙!?なんて、きっと人の机だとか箪笥だとか、綺麗に整理しちゃって、山崎くんあたりから届けられてびっくりしてんじゃないですか。 手紙ってキャラじゃねーだろ、アイツ。とか思いつつ開けたんだろ、副長。 んなもん、本人が一番思ってんだよ、ほっとけ。 ええと、とりあえず何が書きたかったんだっけ。 いや、俺が知るか、とか思いつつタバコの吸殻を灰皿に押し付けてることと思います。 あんま吸い過ぎはよくないって、山崎くんに言われてんでしょ、副長。近藤局長も泣くよ。部屋が白くてもふもふしてるって。 ああ、もう。また話がズレた。 なんか、書きたいことがあってこれ書いているのに、なんていうか、本題以外にも書きたいことってわんさか出てきて、アレですね。 アホらし、もういいわ。って手紙捨てんのは止めてくださいよ。沖田隊長にでも見つかったら、あたし、死んだ後もからかわれなくちゃならないくらいのネタ書くつもりなんですから。 万が一、沖田隊長にでもばれてみろ、呪い殺してやるからな土方コノヤロー。 呪いで思い出したんですけど、例の妖刀のときにあんな目にあったくせに、まだお化け嫌い直りませんよね。あんなのの、何がそんなに怖いんですか? まさか、刀で斬れないから、とかそんな理由だったり…。うわぁ、どんだけ野蛮なんですかアンタ。 ええと、つまりあたしは、何を言いたいんだ。 ああもう!もういいや!とにかくこれ読んだらすぐに燃やして捨ててくださいよ!ホント! 好き、です。 副長が、好き、でした。 自分でもよりによって、なんで副長?とかいまだに思います。こんな仕事をしてるんだから、大事な人っていうのも、作っちゃいけないことだってわかってました。 だけど、人間の感情って、本当にどうしようもないものなんですね。正直、こんなこと初めてで、すごく戸惑いましたけど、まぁ、そこはお得意の開き直りで。 いつ、副長な・ん・かに惚れたんでしょうかね。別に特別に何かがあったわけじゃなくて、いつの間にか、そんな感じです。 それに気がついたのは、ミツバさんとのことがあった時で、 もうそれからは、せめて、副長をかばって死ねるくらいの強さが欲しいと、必死になって稽古しましたよ。欲を言えば、副長に背中を預けてもらえるくらいに、強くなりたかった。 どうでした?あたしはまだまだ、副長に鼻で笑われるくらいで逝ったんですかね? 背中を預けてもらいたいっていうのは、剣術だけの話じゃなくて、なんて高望みしたりもしたけど。 それはきっと、あたしじゃないだろうな、って。 だってそうでしょ?あたしがどんなに頑張ったって、ミツバさんにでさえ答えようとしなかった副長が、あたしに振り向いてくれるわけないじゃないですか。 それに、あたしだって、副長だって、そんなガラじゃないし。困らせるのは目に見えてるから。 だったら、せめて最高の部下として、必要としてくれれば、あたしの人生それで幸せだなって。 ねぇ、副長。 高望みなんてしないから、ちょっとあたしだったものの前で、答えてはくれませんか? あたしは、ちゃんと副長の背中を守って逝けたんでしょうか? 沖田隊長と一緒になって、副長のことからかってましたけど、少しでも、副長の支えにはなれていたんでしょうか? 何か一人で思いつめてた時には、いい暇つぶしにはなったでしょ? 人の頭に容赦なく拳骨ぶち込んで。 書類整理だけで、3日も徹夜が続いたときとか、こっそり副長のお茶の中に睡眠薬入れたの、あたしだったりします。 でも、そのあと目を覚ましたら、きちんと書類整理し終わってたでしょ? 沖田隊長もひっくるめて、皆で書類整理したんですよ? だから、ね?副長。 副長もちゃんと、皆に背中預けないと駄目ですよ? だから、沖田隊長が拗ねるんじゃないんですか。 高望みなんてしないって言ったけど、してもいいなら、一つだけ、わがまま聞いてください。 もし、副長にその気があったら、最後に一回だけ、燃やされる前に一回だけ_____ 「馬鹿か、てめぇは。」 そう言って、もう二度と目を覚まさないコイツの頭を叩いた。 おい、いつもみたいに、ムキになって怒れよ。“何で叩くんですかー!”って食いかかってこいよ。 「こんなもん残しやがって、馬鹿だなてめぇは。」 ぐしゃり、と掌の中で手紙がつぶれる音がした。視界に入っている自分の手が、かすかに震えているのは、もうこの際知らないふりをする。 真っ白な死装束を着せられたは、うっすらと死に化粧をほどこしてもらっていて、それほど顔色は悪くなかった。 だからだろう、いまだにこいつが、ただこうやって眠っているようにしか思えないのは。 今にでも寝返りをうって、寝言をもらしそうな、いつもと同じ、馬鹿みたいな幸せそうな顔をしてやがる。 「てめぇ、普段からこんな奇麗な字書けるなら、報告書もこういう字で出しやがれ。 てめぇのあのミミズの羅列解読すんのに、どんだけかかったと思ってやがる。おい。」 バシン、と今度は音をたてて、の、の頭を叩いた。 そんなことをしても、コイツが目を覚ますことは、もう二度とない。 叩いた衝撃で、きれいにセットされていた髪がはら、と散る。 「俺の背中守りてぇならな、俺をかばって死んでんじゃねぇよ。」 そっとの頬に手をそえる。その冷たさに、声が震えた、気が、した。 すっと、親指での唇をなぞった。その唇が、あの声が、俺を呼ぶことはもうない。 「……っ…。」 肩が震えた。頬を、生暖かいものが流れていく。 なぁ、子供向けの話の中に、これで目を覚ます話が、いくつかあったんじゃねーか? 震える唇を、冷たく色を失った彼女の唇へと重ねた。 「これで満足したのか?」 灰皿の上で、灰になっていく紙の束を見ながら、誰にとは言わず問いかけた。 まだ、あいつの唇の感触が、残っていることに、苦笑いを漏らした。 「副長―!」 ドタバタと、廊下を走る音が聞こえる。失礼します!と言って入ってきた山崎。 「なんだ?」 「もうすぐ、ちゃんのお通夜始まりますんで、副長にも知らせに、と思って。」 「あぁ、そうだな。」 「ってか!なんか焦げクサ! 何してたんですか副長。」 山崎の顔がくしゃりと歪む。そうか、あいつの手紙を見つけ出してきたのはこいつだったな。 なんでもねぇよ、と煙草を加え直して、部屋をでる。後ろを山崎が付いてくる。 「副長、……なんて、書いてあったんですか?」 「…たいしたことじゃねーよ。」 「……でも、ちゃんが遺言って…。」 「いつものタチの悪い冗談の一つだろ?」 「でも!!」 「いいんだよ。それに、山崎。てめぇが気にすることでもねぇだろ。」 そういっての通夜の部屋を開いた。 遺体の前に座って、線香を一本手に取る。それにいつものように愛用のライターで火をつけた。 軽く仰いで火を消し、立てる。 さっきよりも、幸せそうな顔をしたが、そこに居た。
|