はあ、と吐き出した息が白い。ああそうだ、もう冬だ。
廃屋と化していた寺の講堂を待機場所として逃げ込んで2日目。縁側に腰掛けて空を見上げた。
灰色だなあ、つまんないなぁ、と冷たくなった指先に息を吐きながら思う。

?」
「んあー?」

後ろから声がかかって、首だけカクンと後ろにそるように声の主を見る。
黒いもじゃもじゃが、酒瓶をもって笑っていたので、無言で隣をバシバシ叩いてこっちに座るように指示する。

「こげなとこで、何しちょる?」
「暇つぶしを探していましたー。」
「アッハッハッハ、おんしは相変わらず、何考えてるのかわからんの〜。」
「よく言う…。」

ポン、と酒瓶を開ける。いい音がする。
隣に座った辰馬が、開けたばかりの酒瓶を私の腕から奪って、ビンの口から臭いを嗅ぐ。

「んー、まっことええ香りじゃ。」
「そ。……どっから見つけて来たん?」
「高杉がもっちょった。」
「奪ってきたんかい…。」

あーあ、高杉怒るぞ、それ。
引きつった笑みを浮かべると、辰馬はいつものように、あっはっは、と高く笑った。
そげん時は、も同罪じゃ。と笑うもじゃもじゃ頭を、軽く握った手で小突く。
盃は?と聞くと、一人で飲むつもりじゃったけ、持ってこんかった。と返ってきた。

「いやいや、一人で飲むにしたって、これから直接口つけて飲むとかありえないでしょーが。」

開けた酒瓶を中身が出ない程度に左右に振れば、辰馬は困ったように笑ってごまかした。
なんだかそれが無性におかしくて、つられて笑う。バシバシと笑うたびに私が辰馬を叩くから、痛い痛いと辰馬は身をよじった。
ぎしぎしと、床が軋む音が後ろから聞こえてきて、二人同時に振り返る。ニヤニヤ笑う銀髪。

「お二人さんこんなところでイチャついて何?カップル気取りですかコノヤロー。」
「あっはっは!何をいっちょる金時。さすがにとは勘弁じゃ。」
「同感同感、私も辰馬とは勘弁。」
「お。いいもんもってんじゃん。」
「それね、高杉の私物だって。」
「何だよアイツ、酒持ってんなら俺らにもわけろっつーの。」

そういって差し出された手に辰馬と同時に首を傾げる。その行動に銀時も首を傾げる。
なんだかわからないまま、とりあえずその差し出された手に自分の手を重ねてみた。

「わん?」
「なんでだよ!?」

重ねた手とは逆の手で、手加減もなく頭を叩かれる。後ろで辰馬が死ぬ勢いで笑っていた。

「お手じゃねぇよ!犬か!?馬鹿だろ!?お前馬鹿だろ!?」

盃だよ盃!勢いに任せて怒鳴る銀時と辰馬の高い笑い声が辺りに広がって響く。
銀時に胸倉を掴まれて、辰馬に笑いながら背中を叩かれて、で、微妙に身動きが出来ないまま、
あー、これ絶対高杉にバレるなぁ…、とか頭の片隅で思った。
案の定、

「何をしている。」

騒がしくしていたのが気になったのか、ヅラが腕組をして歩いてきた。その後ろに高杉。

「あ。」

私が声を発するのと同じタイミングで高杉の視線が酒瓶を捕らえ、わなわなと拳が震え始めた。

「「「あ、あははははは…。」」」

力なく口から出てきた三人の笑い声が重なって微妙なハーモニーをかもし出した、直後、

「ってっめーーらあああああっっ!!」

晋助くんがキレました。














「とにかくこれは没収だ。」

キレた高杉に掴みかかられて逆ギレした銀時と怒鳴りあいが始まって、
いつものとおりヅラまでキレてお説教という名の長い小言を聞かされるハメになった。
事の元凶の辰馬は隣で笑っている。逆隣は拳骨を一発ずつ食らってぶすっとしている銀時と高杉。

「あのさ、ヅラ〜。」
「ヅラじゃない、桂だ。…なんだ、。」
「明日ってさー、くりすます、なんだって。」
「……くりすます?」

豊臣秀吉がキリスト教禁止令を出してから、知ってる人のほうが少ないんだけども…。
じー…、と横から銀時と高杉が好奇心を含んだ目で見てくる。なんかそれがジリジリきて微妙な気分にさせられる。

「あれじゃろう?いえす・切り干し大根っちゅー、神様の誕生日じゃ!」
「なんだそりゃ!?違う!全部じゃないけど、ほとんど間違ってる!!」
「それでその干しイカの神様の誕生日だから何、何かすんの?」
「何それ、ボケてんの銀時!?」
「その干し梅さんがどうかしたのか?」
「もっと違う!余計に離れたわ馬鹿ヅラ!」
「馬鹿ヅラじゃない、か「もうええわ!!」

これ以上ボケるな、収集がつかなくなるって本当。
がっくりと項垂れたまま口を開く。

「いえす・きりすとっていう人の誕生日で、欧米のほうじゃ、
今日と明日の間に白くて赤いおっさんが、物くれるっていう御めでたい日なんだって…。」

視線が銀時に集まった。
うん、確かに白い。

「白いおっさん……。」
「オイイイイイイっ!!なんだその目は!銀さんまだおっさんじゃねーよ!ピッチピチの十代だよコノヤロー!!!」
「間違っても銀時は贈り物なんてくれないよ高杉。」
「……………。」
「ふむ。で、その切り干し大根さんの誕生日だから、なんだ。」
「………。」
「なんだその目は。」
「別に。」

人の話を聞いていたんですか。聞いていたんですよね。
ため息が口から出そうになるのを堪えて、口を開く。

「だから、贈り物なんて強請らないからさ、せめて、飲み明かしたいなぁ、なーんて。」

ただ飲みたかっただけな下心がバレバレで、ヅラが直視できなくて、最後のほうは銀時のほうへ顔を向けていた。
微妙な冷や汗が背中を伝って、妙にヅラの気配が大きく感じる錯覚をして、体が微妙に縮こまる。
助けて、と銀時越しに高杉に視線を送るが、そっぽを向いて反らされた。

、お前というやつは…、

あああああ、小言が始まってしまった、と心の中で頭を抱えたその時、

「桂さん!!!!!」

バタバタと尋常じゃない速さで走ってきた仲間の声に遮られ、言い切らないうちに桂の十八番の小言は消え去った。
走ってきた彼の切迫した表情と息の荒さに、その場にいた誰もが、決していい知らせではないことを悟る。
場の空気が、一瞬にして変わる。吐息を漏らすのさえ躊躇われるくらい張り詰めたそれに。

「今、ものすごい数の天人の兵がこちらに向かってきています!!」

ズシン、と何か重たいものにのしかかられたように、体が重くなった感覚がした。
あぁ、忘れていた。ここは戦場なんだ。本当は、安らぎなんて、あるような場所じゃない。
何故か無性に悔しくなって、ぎゅ、と拳を握り締めた。
2日前の戦で生き残った仲間の大半が負傷していて、戦いになんか出せる状態じゃない。
せめて、せめて、もう少しだけ、彼らが治療に専念できる時間が、欲しかった。
ねぇ、きりすとさん。貴方に限らずだけど、こんなにも何もしてくれない貴方たちが残酷だと、思えて仕方ないよ。







「具体的な数はわかんねぇのか?」
「そこまでは…。」

ヅラと高杉、それから伝えに来てくれた彼で、別の部屋に移動してどうするか作戦を練っていた。銀時、私、辰馬、と、それを壁に寄りかかって聞いてる。
仲間の大半が負傷している今、まともに戦える人員は限られていて、そして物資も満足とはいえない。普通に殺り合いに行くには、あまりにも分が悪すぎる。

「………参加しねぇの?」
隣で銀時がそう尋ねてきた。
うん、と一回頷いてから口を開く。

「私が口を出したところで、何も変わらないよ。」
「……なして、はそう思うんじゃ?」
「さあ?」

わかんないけど。きっとどんなに私が口を出したってこの不利な状況は変わらないだろう。
それに、

「回避できる策なんて、1つしかないんだって、わざわざ私が言わなくたって分ってるよ。あの二人は。」

あの二人だから。あの二人だから、ちゃんと分ってる。
必ずしも誰かが死ぬようになる策なんて使いたくないんだよ。だから今必死に考えてるんでしょ?
足掻いてんだよ。それぐらい、そんなことぐらい、させてあげたっていいじゃない。その分、苦しみは倍になるかもしれないけれど。
視界の端に、震える銀時の拳を見つけた。
暫く三人の口論が部屋に響いて、私と銀時、辰馬はただ黙って沈黙を守っていた。

「………くそっ!!」

バァン、と胡坐をかいていた高杉が地面に拳を叩きつける。
ヅラは額に手をあてて俯いたまま何も言わなくなった。
そろそろ諦めたのか、と壁から背中を離して近づく。

「いいよ。劣りは私が引き受ける。」

ヅラと高杉の間に膝をついて、口を開いた。
ヅラも高杉も伝えにきた彼も、俯いた顔を上げて凄い顔をして私を見た。
直後に横から高杉の拳が飛んできて、殴られる前にそれを受け止める。

「…、っざけんじゃねぇ!!!」

怒鳴られた直後、私の拳が高杉の頬に入る。
ズシャアア、と音を立てて高杉が畳の上を滑っていく。手加減してないから、当たり前か。

「どっちが夢みてんだよ。全滅すんのとどっちがマシだ、馬鹿野郎。」

思った以上に低い声が口から言葉を紡いだ。これじゃ、完璧に八つ当たりだ。ごめんね高杉。
別に死ぬのが怖くないわけじゃない。むしろ怖いよ。銀時も辰馬も小太郎も晋助もいない何もないところなんかに行きたくなんてないよ。
だけど、だけどさぁ!!

「これ以上戦力は落したくないんだよ、晋助。」

誰も口を開こうとしない。まるで沈黙が体に圧し掛かっているような空気の中。
一番初めに動いたのは銀時だった。

「刀の手入れ、してくる。」

ボソっと呟いた声は、普段なら聞き落としてしまうけれど、この部屋の中でよく響いた。
パシンと障子が閉まって銀時の足音が遠ざかっていく。
小さくなりすぎて聞こえなくなったところで、今度はヅラが立ち上がった。

「梶本、作戦を他の奴等に伝えてこよう。」
「あ、……はい。」

彼の名前は梶本、と言ったらしい。あー、覚えてないっていうより初めて聞いた。
きっとお互いに名前なんか知らなかったけど、どうか、そんな辛そうな視線でこっちを見ないで欲しいかったな。
今にもなきそうだった彼に、苦笑いを送ると、去り際に涙が頬を伝うのが見えてしまった。

「ふざけんな…。」

殴られたまま動こうとしなかった高杉が起き上がる。殴った頬が赤く腫れてしまっている。
やっぱり、小さく呟いた声が、この部屋ではよく私の耳に届いて響いた。

「ふざけんな!!」

繰り返して怒鳴る。ドスドスという効果音でもついているのだろうか、一歩一歩踏みしめて近くまで来ると、人の胸倉を掴んで顔を引き寄せられた。

「てめぇ女なんだぞ!!捕まったら何されるかわかってんだろ!?」

そんなこと言わなくたってわかってるよ。そんなに必死にならなくたってわかってるよ。
怒鳴るなら、その顔止めてくれないかな。そんな顔されたら、私だって怖くなってくるよ。

「なんであんなこと言いやがった!?…ふざけんな、………。」

人の胸倉を掴んで腕に顔を埋めるようにして、高杉の声が小さくなる。
辰馬は腕を組んで壁に寄りかかったまま動かない、だけど視線はしっかり私たちを捉えていた。

「女だから、だよ。」
「…っ!!」
「女だから、たとえ一割以下でも、生き残れる可能性があるんだよ。どんなに手酷いことをされても、もしかしたら慈悲をかけてくれるかもしれない。」

涙がたまった晋助の目の下をなぞる。
そのまま頬を包み込みようにして、むに、っと掴んだ。

「まぁ、でも、そう簡単に捕まってなんかやんないし、そう簡単に殺されてなんかやんないよ。」

晋助が目を見開く。我慢していたんだろうけど、涙が瞳から一筋溢れて、晋助の頬と私の手を濡らした。

「そりゃね、高杉たちには力も剣術も体術だって劣るよ?だけど、それでも死んでったやつらよりは強いつもりだからさ。」

頼むからそんな捕まること前提に話さないでくれない?大丈夫だよ、ちゃんと生きて戻るから。
固まった晋助に、やっと辰馬が壁から背中を離してこっちにやってくる。
ペシン、と辰馬が晋助の手を叩いて、私の胸倉から手を離させると、今度はその手で私の頭をぐしゃぐしゃに撫でた。

「おんしゃぁ、なんで、ほがに強いが?」

笑えてない笑顔で辰馬はいう。誰も納得なんてしてないんだ。絶対。
辰馬にされたように、座り込んでしまった高杉の頭をぐしゃぐしゃに撫でた。

「昔からさ、男は肉体的に女は精神的に、って言うじゃん?」

ぐっしゃぐしゃになった高杉の頭を最後に叩いた。睨まれる。
それに、ニィと銀時並みの嫌な笑みを浮かべてやった。
また胸倉を掴まれそうになったところで、タイミングよく障子が開く。
ふわふわ揺れる銀髪。

「どうしたんじゃ?銀時。」

ボリボリと自分の頭を書きながら部屋に入ってくる。困ったときにやる銀時の癖。
近くまで歩いてきたと思ったら、刀を差し出された。
首を傾げる。

「……その、アレだ。アレ。くりきんとん?…とかいう行事の贈りもん。白いおっさんがくれんだろ?」
「っぷ……。」

照れて目線を合わせてくれない銀時に噴出す。刀を受け取った。
ずっしりと手になじむ重み。ああ、これ銀時が愛用している刀じゃないですか。

「いいの?」
「……いらねーなら返せ。」
「有難く頂戴します。」

口を尖らせて目線を合わせてくれない銀時の頭を刀の柄でつつく。
す、と障子が開いて、桂が入ってきた。

と共に残る奴等を集めて待機させてきた、早く行ってやれ。……それから、」

コレは俺からだ。と手に髪留めを渡される。

「俺が愛用している髪留めだ。激しく動いても簡単には取れないだろう。持っていけ。」
「いや、でもヅラの分は?」
「ふ…。安心しろ、予備はある。それに、明日は切り干し大根とやらの誕生日なのだろう?」
「……ははっ、……そうだね、ありがとさん。」

切り干し大根じゃなくて、きりすと。そういうと、ヅラはむっとした。
ありがたく頂きますよ。と言って髪をそれで束ねる。ヅラほど長くはなかったけど、肩まで届いていた髪を纏めた。

「ほんじゃ、わしはこれじゃ。」
「うぐっ…。」

ぎゅううううう、と抱きしめられる。辰馬の胸板で顔が潰れて微妙に苦しい。
ありがた迷惑じゃ、この野郎…。

「ぶはっ…。」
「歯、食いしばれ。」
「ぐっ!!」

辰馬から開放された直後、高杉から拳が飛んでくる。
突然のことに受身も取れずにそのまま殴られてしまった。しかも手加減なしかコイツ…。
頬を押さえてたたみの上に転がって呆然としていると、銀時と高杉がニヤニヤと嫌な笑いを浮かべてやがった。
辰馬は相変わらずの甲高い笑い声で笑っているし、ヅラも珍しく口元に笑みを浮かべている。
我慢できずに、私も噴出して笑った。

「あはははははははは!!なんだよそんなの贈り物って言えないっつーの!!」

ひーひー、と笑いも収まったところで銀時にもらった刀をついて立ち上がる。
さてと、そろそろ行かないと。待たせているのに悪い。
部屋から出るのに、障子に手をかけたところで、振り向いた。

「じゃあ、私は生きて帰ってくるよ。」

べぇ、と舌を出して嫌な笑いを浮かべて部屋を出た。










ドドドドドドド、と遠くから音が響く。地が鳴る地が揺れる。
視界の遥か向こうの先で朝日が昇っていった。
たった100人程度の人員だけど、時間稼ぎさえ出来れば大丈夫だろう。そして生きて帰ろう。
隊の指揮を任されたのは私。遠くのほうに土煙が見えてきたところで声を高く張り上げた。
「生き残って帰って驚かせてやろう!!!!!」
それがきっと、何より物贈り物になるはずだから。

(貰っておいて、こっちは贈らないなんて失礼すぎるから)(だから、私が一番欲しいものをあげよう)
END





















-----------------------***
と、いうことで、さつきさんへ捧げます。ハッピーメリークリスマス!!
って、ハッピーじゃあねーだろーがあああああああ!!!(ちゃぶ台返し)
今25日の23:44分です。めっちゃぎりぎりです。ホント。ありえなくねえ?っていう感じです。ごめんなさい。
とりあえず、攘夷の4人組で夢?っていうか夢なんだろうか?コレ。
ヒロインさんが無事生還されたかどうかはおのおの心の中でもやもやしてください。してくださることが出来れば上出来な感じです(ぇ)
坂本龍一さん作曲の戦場のメリークリスマスをBGMに書き上げました。どうぞお暇があればバックで流しながらもう一度読んでみてくださいませ。
っていうか、ごめんね!さつきさんごめんね!!こんな駄作贈りつけてごめんね!!でも約束は守ったぜ!
別に、坂本をかけたわけじゃないんだからあ!!(何故かツンデレ)
それでは、こんなぐっだぐだなあとがきまで読んでくださってありがとうございました!!