「お前!絶対そこにいろよ!!絶対いろよ!!居なくなったらアレな!アレだからな!!」 「はいはい、居るっつの。アレってなんだよ。もー。」 「お前絶対逃げんなよ!頼むから逃げんなよ!!300円あげるから!!」 「いらないっつの。そんなんになるくらいなら、初めから見なければ良かったじゃん馬鹿。」 「ちょっ!馬鹿って言ったほうが馬鹿なんだよ馬鹿。」 「…………………。」 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。そこに居てくださいお願いします。」 「居るよ、ちゃんと。」 シャアアア、とシャワーの音が扉の向こうから聞こえる。 お風呂場にいる銀時の声が、壁に反射して響いて聞こえてくる。 私はその扉に背中を預けて、ため息をついた。 攘夷時代は白夜叉として身内にも恐れられていたこの馬鹿が、こんなに怖がりだったなんて一体何人が知っているんだろうか。あんなにも、逞しくて力強い背中を、私は今でも覚えている。 「ちゃんとそこに居ろよ!絶対居ろよ!!居てくださいコノヤロー。」 「何回言えば気が済むんだよ。銀。」 「馬鹿、この馬鹿!お前口数少ないんだから何かしゃべってねーと居るかわかんねぇじゃねーか、この馬鹿。馬鹿!」 「………さようなら。」 「ちょっとおおお!?何裏切ろうとしてんの!?銀さんさびしかったら死んじゃうんだからな!!」 「………………。」 「イヤアアアアアアアアアア!!ちょ、銀さんが悪かったから許してちゃーーーーんっ!!」 「…………大丈夫だよ、居るよここに。」 うるさい。風呂場で叫ぶな、響く。きっと明日、お登勢さんに怒られるだろうな。 そう思うと、無意識のうちにため息がでてきた。銀と一緒にみるんじゃなかったな…。 今日たまたまレンタルビデオ店で、神楽ちゃんと見ようと思って借りてきたホラー映画を、銀も一緒に見たのだ。そんなん見て何が楽しいんだ、とかぶつぶつ言っていたが、うまく神楽ちゃんの口車に乗ってしまった馬鹿が居た。 見てる最中に絶叫はあげるは、人に抱きつくは、で大変だったあげく。風呂まで一緒について来い。 まぁ、こうなったのは私の責任も少しはあるので、おとなしくここに居るんだけど。 「銀。」 「なんだー?」 「寒いから、早く。」 「だからおめぇ、一緒に入ればいいじゃねーか。」 「ふっざけんな。何が嬉しくて狭い風呂に2人も詰め込まれなきゃいけないのさ。」 「いいじゃねーか、たまにはこーいうプレイも。」 「もっと、お断りだって、?……ぃぎっ!?」 背中の壁がなくなって、ビシャ、と冷たい水が背中にかかった。 まだ秋とはいえ、もう冬はすぐそこまで来ている。廊下に居るのでさえも寒くて早く戻りたいのに、何をするんだこのやろう。 文句をいってやろうと振り返る。 「『いぎっ!?』ってお前もうちょっと色気のある声だせよ。」 「………。」 マッ裸の銀髪が、妖しい笑みを浮かべてそこに立っていて、思わず言葉をなくしてしまった。 「んの!気持ち悪いもの見せんなフル■ン!!!」 「ふごっ!!」 右ストレートが綺麗に決まった。 |