「別れよう、なんて、言われるくらいなら、いっそ、この胸を、壊して、ほしかった、のに。」 綺麗に飾られたクリスマスツリーを見上げながら、が呟いた声を、俺は聞き逃さなかった。 ああ、そうだな。いっそお前が俺の胸を壊してくれたらいいのに。 見てるこっちが泣きたくなるぐらい切ない横顔をみて、むしろ俺がお前の想い人だったら、と考えた。 クリスマスツリーを見上げるその横顔に見入ってしまいながら、お前が悲劇のヒロインだとしたら、この想い一つすら、口に出せない俺は何なんだろう。 かける言葉すら、見つからない。きっと、今は何をいっても嘘になる。ごめんな、。俺はお前が振られて嬉しかった。 「ごめん、何言ってるんだろうね、私。」 無理して笑ったその顔にさえ、欲情する。さらに、かける言葉が見つからなくなった。 自分の首の後ろに自分の手を持っていく。ひや、と首に添えた指先が冷たくて、小さく身震いした。 「ごめん、銀さん。」 「あ?なんで?」 「こんなところで、私だけ泣いてたら、銀さんが、泣かしてる、って勘違い、され、る。」 「あー、…………ったくよー。…ほら、胸くらいかしてやらぁ。」 その涙が、俺を想うものなら、どれほど嬉しいものか。俺が泣きてぇよ、馬鹿。 一つ一つ、言葉が口を出るたびに、の瞳からこぼれてくる大粒の涙。んなこと、気にしてんじゃねーっつの。 がそいつを想うほど、俺はお前を想ってる。 見ていられない、でも、見ていたい。 を抱き寄せて、ポンポンと頭を撫でてやる。そうすると、は俺の腕の中で、フルフルと首を小さく振った。 「銀さんを、好きになれば、よかった。」 とたんに、心臓を抉られた感覚。の頭に手をのせたまま、目を閉じる。 自覚が無いのは、今の俺には、残酷、すぎる。 なぁ、それなら、あの男の腕から、お前を掻っ攫って、無理やり俺のものにしてしまえば、 お前は、こんなふうに悲しんだりしなかったんだろうか。 「俺はもっとひでぇぞ?」 「嘘。だって、こんなに優しいのに。」 それこそ嘘だ。 俺はが振られて弱っているところにつけこもうとしているのに。 こんな俺のどこが優しいんだ。相変わらずお前は男を見る目ねぇな。 「銀さんは束縛するタイプですよー。浮気とかぜってー許さないから。」 「きっと、銀さん、のこと、好きになる人は、銀さんしか、見れなくなるよ。」 そういっては、とん、と俺の胸を軽く押した。それに従って、俺もを腕から開放する。 赤く腫れた瞳で、無理したように、笑うな。 俺の胸くらい、何度でも、何度でも貸してやるから、だから、 「ありがと、銀さん。」 ぐい、との腕をとって、自分の腕の中に閉じ込めた。 ああ、やってしまった。もう、元には戻れない。 が驚いて息を呑む気配がする。 暫くして、それは、ふっと、自傷気味な笑いに変わる。力いっぱいを抱きしめた。 「ホント、銀さんを好きなれば、よかった。」 |