ふわっ、と揺れるような感覚がした。肩のところで跳ね上がった鬱陶しい髪の毛。 シャワーの後だろう。石鹸の香りが漂ってきた。乾かしきれなかったのか、毛先に雫。 「山崎さん、おかえりなさい。」 「あ、…うん。ただいま。」 困ったように笑う顔。何をしてきたのか分かったのが伝わったんだろうか。 うん。わかってますよ。時にはそれも監察の仕事だってことくらい。 こういうときは、自分の無表情がどれほど役に立つか、こんなときだけ自分の無表情に感謝する。 「山崎さん。」 早々に去ろうとしていた山崎さんを呼びとめて、トントンと自分の首筋を叩く。 一瞬固まって、はっとしたように首筋を隠した。 あ―あ、駄目だよ山崎さん。そんなんじゃ、 「監察失格ですよ?」 苦笑いを浮かべた表情のしたで、胸が痛い痛い痛いと悲鳴をあげる。 めったに表情をださない私の苦笑に驚いたのか、山崎さんは固まってしまった。 だから、そんなんじゃ監察失格ですよ?って。 「それじゃあ。」 今は、山崎さんと一緒に居たくないと思った。 私はただの数少ない平隊士だけど、山崎さんは貴重な監察方。わかってはいたものの、同じ真選組にいるとはいえ、仕事は違いすぎる。 時には仕事で女を抱くことだってあるだろう。 それに、私は何も告げてはいないのだから…、 だから、この思いを抱くのはお門違いというやつすぎる。 「……あ―あ。」 せっかく会えたのになぁ…。とため息をもらす。 だけど、だけど、耐えられるはずがなかったんだ。好きな人から違う女の人の香りをかぐなんて。 「やーまざーきさん…。」 歌うように呟いた声は辺りに染みて消えていく。 貴方が、好きです。 |