「おぼろろろろろろろr……。」
「きったねぇな、こっちに吐くなよ!こっちに吐くな!!」

歌舞伎町の裏通りのビルとビルの間の人一人ぶんのスペースにしゃがみこむ晋助の背中をさすりながら、晋助の口から出てくる汚物がかからないよう身をねじる。
こいつと飲むといつもこうだ。いい加減にしろよ、お前仮にも弁護士だろーが。
晋助が傘を壊したせいで、雨にうたれて髪の毛も服もびしょびしょになっている。最悪の気分のなか、完全に泥酔している晋助が、吐く、と言い出したもんだから、たまらない。
この裏通りを通ったほうが駅に近道だから、と晋助が言っていたけど、これじゃあ意味ないだろう。
まぁ、でも表通りで吐くわけにも行かないから、結果、裏通りを選んで正解だったんだけど。
はぁ、と口からため息が1つ漏れる。なんでこいつはいつもいつも、

「そんなに泥酔するまで飲むんだろ。」
「ぉえっ……、ぅ。」
「ほら、全部吐いちゃいな、晋助。」

嗚咽を漏らす晋助の背中をさすってやる。
そのとき、視界に何か金色のものが一瞬入ってきて、驚いて顔を上げた。

「おぼろろろろろろろろろr……。」
「ぎゃああああああっっ!!」

その拍子に晋助が吐いて、驚いて飛び上がる。

「ちょ、おまえ、もう少しでかかるところだったじゃんか!馬鹿!!」
「あ“――、ぎもぢわるい”。」

そういって人の服を掴む晋助の手を叩いて落す。
ちらり、とまた視界の端を金色の何かがかすめた。なんかあるのか?と思ってそっちに顔を向ける。

「…え?」
「あ?」

背中をさする手を止めたて、疑問の声をあげるあたしに、晋助も不思議に思って声を挙げた。
あたしの視界のど真ん中には、金髪の小さな男の子が、縮こまって眠っていた。









Nice to meet you. 01










「おい、。そいつどうするつもりだよ。」
「いやいや、あたしから言わせて貰えば、お前こそ人ん家来てどうするつもりだよ。」

すっかり酔いがさめたらしい、晋助はあたしが自分の家の鍵を開けると、勝手にドアを開けて中に入っていった。
何勝手に入ってんだ、コラ。
まぁ、高校からの悪友だから、今更プライベートなんてもんほとんどなく、自由にお互いの家を行き来してはいるものの、今の今まで雨に打たれていたので、お互いびしょ濡れ状態。
そして今、あたしが背負っているこの男の子を、まずはお風呂に入れて温めてあげたい。
そんな状況で、晋助は正直邪魔なわけでして、

「おめぇ、後でぬれたとこ拭いとけよ。」
「………しーんちゃーん?」

おめぇ、何人ん家来て横暴働いてるんですかね、晋助くんは。
片手で背中の金髪くんの体重をささえながら、しゃがんで靴を脱ぐ。靴下まで水をすってガポガポ音がする。
背中の重みが消えたと思って顔を上げたら、

「なんだこいつ、軽すぎじゃねーか。」

晋助が片手で抱き上げていた。
そのまま、俺が風呂入れてくるからお前も体拭いとけよ。と人の家のバスルームに入っていった。あー、まぁ、なんだかんだ言いながら、あいつ何かとガキ好きだからな…。
家の中にあがると、まぁ、こんな時間だから当たり前なんだけど、窓の外が少しずつ明るくなってきていたのが見えた。
干し終えた洗濯物の中からバスタオルだけを引き出して、体を拭きながら、同じく洗濯物の中から下着とジャージを引っ張り出して着替える。
わしわし、髪の毛を拭きながら、コーヒーでも飲もうとキッチンへ入って湯を沸かす。

それにしても、あの見事な金髪は地毛…、だよなぁ。ってことは外人なんだろうか。そのわりには顔は日本人のつくりをしていた。あー、でもなぁ、日本語しゃべれなかったらどうするか。教えればいいか。

ピーーー、と音を立ててお湯が沸くのと同時に、晋助がバスルームから出てきた。

「………せめてタオル巻いて出て来いよ。変態。」

案の定裸のままで出てきた期待を裏切らない馬鹿に向かってTシャツを投げる。
のサイズじゃ入んねぇーよ、と口を尖らせて言う晋助にため息を1つ。

「おめぇじゃねーよ、変態。せめて隠せよ。…その金髪くんに着せてやって。」
「こいつ地毛だったぜ、この金髪。成長したらあそこの毛も金だぞ、コレ。」
「晋ちゃん、そんなことはいいから言われたことやんなさい。」
「俺が前隠したらもっと卑猥になるじゃねーか。」
「そっちじゃないっつの。うるせぇよ、もうお前黙れよ。歩く18禁。」
「ククク……、おめぇも面白れぇこと言うじゃねーか。」
「おい、どこ見て言ってんだ、コラ。カメラでもあるのか、コラ。晋助。」

コポコポと、インスタントコーヒーを入れたカップにお湯を入れる。
この沸かしたての湯を頭からぶっ掛けてやろうか、このヤロウ。
カップ二つ分のコーヒーをダイニングテーブルの上において、晋助から金髪の少年を取り上げる。
そのまま担ぐようにして抱き上げて、自分のベットの上に寝かせた。

「風呂入れてもおきねぇなんてな。」
「ん。……よっぱど何かあったんじゃないの?」

とりあえずあたしのTシャツを着せる。まるで死んだように眠っているこの子の鼻に耳を近づけて息を確認する。まぁ、細いけど、ちゃんと息してるし。
ちゃんと晋助が頭を拭いてくれたらしい。髪の毛は少し湿っているだけだから、大丈夫だろう。

「……コイツが起きるまでは、とりあえず何も言えねぇ…か。」
「んー、まぁ、そういうことになっちゃうか。」

晋助のほうへ振り向けば、コーヒーのカップに口をつけながら、珍しく真剣な顔をした、フルチンがそこへ立っていた。
……………せめて、隠せよ。