テレビから、朝6時を知らせるニュースが流れる。ぶえっくしー、と晋助がおっさんクシャミをした。 結局、あたしの家に晋助の着替えなど置いているわけもなく、晋助が着ていた服をゴウンゴウンと乾燥機で乾かしている間、シーツに包まってるように言ってある。そうしたら、人のソファーを陣取って寝やがった。叩いても起きません、晋助くん。 座る場所がなくなってしまったあたしは仕方なく、金髪君が眠るベットのふちに腰掛けている。 あー、もう6時なら土方起きてるかな…。遅れるかもしれないと連絡しなきゃ駄目だよな、コレ。 携帯をとろうとベットから立ち上がると、小さくうめく声が聞こえて振り返る。 ………やばい、気がつかなかった。頬がほんの少しだけ赤みを帯びている。 額に手のひらを乗せて熱を測れば、案の定熱くなっていて、慌てて薬箱から冷えピタを取り出そうと立ち上がろうとする。 けどそれは、くん、と何かに引っ張られた感覚がして見つけた、小さな手に阻まれてしまった。 たぶん無意識だろう、金髪君が、あたしのジャージの裾を握っていたのを、見つけてしまった。 Nice to meet you. 02 「とりあえず状況を説明しろ。いや、して下さい。」 裸で出迎えた高杉に軽くフリーズして、家に入るなりため息をついて人のソファーに座った土方は、両手で頭を抱えて細々しい声で言った。 さっそく土方に買ってきてもらったパンツをはき始めた高杉を視界の端に確認しながら、そんな土方に申し訳ないという微妙な気持ちが沸いてきた。 あれから、なんだか妙にそのジャージを握る小さな手を放したくなくて、枕の横に置いてあったクッションを高杉に投げつけて起こし、携帯をとって貰って土方に、『コンビニでいいから新しい男物のパンツと、土方の着なくなった服でいいから上下もってきて、あ、あとスポーツ飲料水の2リットルも買ってきて下さい。後で金払うから。』と用件だけ伝えると、律儀な彼は10分以内に車をぶっ飛ばしてやってきた。 その間にもこの金髪君は目を覚ましてくれないどころか、それどころか頬は赤みを増して苦しそうに息を吐き始めたので困ってしまった。高杉にとってもらった冷えピタをおでこに貼ってあげたけど、大人用じゃやっぱり大きかった。ふわふわの髪をなでるが、やっぱり起きてくれない。 「朝方まで晋ちゃんと飲んでてさ。晋ちゃんが傘ぶっ壊すから、びしょ濡れになっちゃって。」 「お前らまた飲んでたのかよ。」 「あ?なんだ?土方、おめーも呼べばよかったか??」 「うるせー。そんでなんでこんな朝から呼び出されなきゃなんねーんだ。」 「ククク、それはなぁ、……聞いて驚けよ土方、実はな… 「だまれ晋助。…土方、こっちきて。」 なんで?という顔をした土方に、いーから、と告げて手招きをする。 立ち上がって、こっちに2、3歩近づいたところで、金髪君が視界に入ったのか、一瞬眉を寄せて目を見開いた。そしてすごい勢いで顔が青くなっていく。 おい、なんで顔まで青くする必要があるんだ土方。 「お前らそれは犯罪…。」 大体予想の範囲だった土方の早とちりを、まぁ、晋助はそういう奴に見られてもおかしくはないよな、と思いつつ、次の瞬間口から出た言葉は、見事に奴とハモった。 「「誘拐じゃねーよ!」」 それでも怪しいと視線で訴える土方に、片頬をピクピクさせながら、ドスの聞いた声で口を開く。 「裏路地で倒れてたんだよ。保護したんだよ、このヤロウ…。」 目が点になる土方。なんだお前、喧嘩売ってるんだろう。 だあー、と絶対ワザとだろう、盛大にため息をついて人の横の開いているスペースに座る。 「保護ったって、……お前なぁ…。」 「土方の知り合いに警察の人間いたじゃんか。捜索願い出されてないか確認して貰ってよ。」 「……ああ。それにしても何だ、このガキ。」 「可愛いっしょ?ここ握って離さないの。」 「…………………鼻の下伸びてるぞ。」 ベシと、土方に叩かれるが、あんまり気にしない。やっべー、ニヤニヤが止まらん。 だって、だって、こんなにもこの手を愛しいと思う。 あーあ、餓鬼なんて無邪気で失礼で嫌いだったのになぁ…。実は、自分が一番自分に驚いている。 土方にのべーっと頬を引っ張られるが、無視して金髪君の頭を撫でる。 後ろから、テレビが6時半を告げる音をだして、そっちに顔を向けたら、 「あー、っちー、ちー、あっちー。」 わざわざテレビの前の床に体育座りをして、其芸能人の手まねをしている晋助がいた。 「……晋ちゃーん?」 「っけ、どうせ俺は愛を育む彼女さえいねぇよ。」 見せ付けやがって、死ねよ土方。とぶつぶつ呟きながらのの字を書く晋助。 やつあたりすんな、とそれにむきになって土方が怒鳴ったので、反射的に脛を蹴ったら、微妙な悲鳴を上げて蹲ったのでこっちが慌てて誤りながら、土方の前に移動した。 「お?」 晋助が声を上げるのと、後ろで何かが動く気配と同時で、土方と一緒にベットを振り返ると、 綺麗な大きく開かれた紅い瞳が、こっちを見ていた。 あたしは声も出ず、隣で土方がぼそっと赤目と呟く声がかろうじて脳みそを叩いて、 「だれ?」 やっと目を覚ました少年の小さな唇が紡いだ音を、危うく聞き逃すところだった。 |