紅い瞳は死んだ魚のように濁っていて、まだこんな小さな子供なのに。と思った。
そう、まだこんな小さな餓鬼んちょの癖に、なんて顔して笑いやがる。人を見下したような嫌な笑いを浮かべて、それでもって絶望したようなそんな失笑を浮かべて。そしてあたしは、そのあと金髪君が口にした言葉に、地面にでも落されたような錯覚をする。

「今度は誰のねこになれば、何日食べさせてくれるの?」

全員が全員、言葉に詰まった。何を言ったんだ、このガキんちょは…。

「おい、ねこっておめぇ、人間は猫になんてなるめぇよ。せめてウルトラマンにしとけガキ。」
「いや、ウルトラマンにもなれねーよ。」

KY晋助の発言に土方も場違いな突っ込みを入れる。
が、あたしはそれどころじゃない。
金髪君の目を、あたしは見ている。金髪君も、あたしの目を見ている。
視線は絡んで、お互いにはずそうとしない。

「君を拾ったのは、あたしだよ。」
「…ふーん。お姉さんロリコン?」

ロ リ コ ン じゃねーよ。失礼なガキだな。コイツ。
ピクピク、と頬の筋肉が揺れる。

「あんな…、うぬぼれんなよクソガキ。」
「……、おい、?」
「今までそうやって誘惑してくれば食いつなげてこれたかもしんねーけどな。誰もがお前の誘惑で落ちると思ってんな。ク・ソ・ガ・キ。」

お前、それは怒るところ違ってねぇーか?とか土方が横で言うけど、スルー。
あたしは今このガキとタイマンはってんだ。邪魔すんなマヨラー。
だって、そうだろ。こんな最悪な生き方しかねー、なんて思ってる子供だ。叩きなおしてやる。自分で誘っておきながら、腐った奴しかいねぇ、的な顔しやがって、なんだクソガキ。
ギ、と睨む紅い視線に、わりと真剣な視線を返す。
普通の子供なら、これくらいの年の子供なら、泣き出すのにな…。

「倒れてたから保護しただけだ。世の中皆が変態だと思うな。あたしにそんな趣味はないし、興味もない。」

ずい、と顔を近づけて、起き上がってベットに座っている金髪の両腕を手のひらで包む。
驚いたように目を見開く金髪。けれど視線ははずさない。

「助けて貰ったら、まずはありがとうございます。それから名前を名乗れ。」

じゃねーと、ずっとクソガキって呼ぶからな。と最後に軽く頭突きをかまして離れる。
自分でやっといて、なんだかお母さんってこんな感じなんだろうか、と思ったら少しくすぐったくなった。
後ろで、よ!お母さん!とか言っているKYがいるのに、なんだか照れくさくて視線を泳がせる。
ボソ、と聞き取れないくらいの小さな声で、金髪君が何かを言った。え?と聞き返す。

「金時!!」

なんだかムキになって、叫ぶように発せられた名前に、可愛くて、それでもってピッタリな名前に、ふ、と口元から笑みがこぼれる。

。よろしくな。」

ぐしゃぐしゃ、と金髪をなでた。









Nice to meet you. 03










「で、これからどうすんだよ。」

温かいコーヒーを入れなおして、ダイニングテーブルに向かい合って座りながら、土方が口を開く。ちなみに晋助君は、金時と一緒にじゃれあっている。ギャーギャー怒鳴り声が煩いがあえて無視を決め込む。

「あー、でも今日の仕事は近藤さんが休みにしてくれたから、ゆっくりしようとか思ってるけど。」
「今日のことじゃねーよ。……あのガキだ、ガキ。」
「だって、特徴あるやつだから、捜索届け出てたらすぐ見つかるだろ?」
「そーじゃねぇ。それまでどうすんだっつてんだ。」
「…どーすっかねぇ。」
「おい。」

本当、どうしたらいいかなー、コレ。
答えを探すように、つけっぱなしのテレビを見る。ニュースから流れてくるのは、相変わらず悲しいことでしかなくて、そこに答えなんかなくて。
頭をテーブルにつけて、上目で土方をチラ見しながら、ため息と一緒に言葉が溢れた。

「どーっすっかねぇー……。」
「じゃあ、服着せてやれよー。」

急に会話に参加してきた晋助のほうに視線だけ向ける。
なんか金時の頬を引っ張ってのばしている。金時はその仕返しなんだか知らんが髪の毛掴んでいる。そのまま禿げろ晋助。

「そーだよなぁ、服だよなぁー…。」

でも男の子の服ってよくわかんねぇーんだよなぁ…、とちらと土方をチラ見する。
とたんに視線をはずされたので、そのままじとーーーー、と視線を送り続けながら金時に話しかける。

「金は、どんな服がいいのさ。」
「べつに何でもいい。」
「だってー、土方ぁ〜。」
「だからってなんで俺が…。」
「晋助のセンス壊滅的なんだよ。赤いアロハシャツとか…。」
「あんだと。アレのどこが悪ぃんだよ。むしろハデでいいじゃねーか。」
「いや、それはわかってるけどな…。」
「おい土方てめぇ、喧嘩売ってんのか?ああ?」
「やかましかー!!」

近くにおいてあったクッションを高杉に投げつける。誰かさんがすぐ誰かさんに噛み付くせいでうちにはクッションが溢れかえっている。別に目覚まし時計とか投げてもいいんだけど、残骸を片付けるのがめんどくさい。
鞄の中をあさって財布をだして、とりあえず中に入っている金額を確認する。まぁ、これくらいで足りるか、と財布から諭吉さんを一枚取り出して土方に差し出す。

「とりあえず、外に連れ出せるような服買って来て。下着とかもねー。」
「……おまえなぁ…。」

盛大なため息を土方に疲れてむっとする。

「それからは、あたしが他の生活用品、こいつ連れ出して買うからさ。」
「………ったく、お前一人で養って行けんのかよ。」
「そりゃね、君に比べれば収入はすくないけど。これでも国家公務員ですので、稼ぎはあります。」
「………なんかあったら、言えよ。」
「おう。」

二へと笑うと、またため息を疲れた。額に手をあてて項垂れる土方。
あたしはくる、と首の向きを変えて金時のほうを見る。なんか高杉に頬を伸ばされたり髪の毛ぐしゃぐしゃにされて嫌がってる。
また、近くにあったクッションを引っつかんで高杉に命中するようにぶん投げる。
あー、失敗した。
金時まで一緒に巻き込んで高杉が後ろに倒れる。
まぁ、でもいいや好都合だ。

「おーい、金。」
「ってーな!何すんだよババア!!」
「ババアじゃねーよ!まだ20代!……金時!」
「……なんだよ。」
「今日から、あたしがあんたを育ててやる。」

これでもか、というくらい、赤い瞳を見開いた、金髪をゆらす小さなガキ。
世の中の汚いもんばっか見てきたっていうなら、あたしが世の中の綺麗なものを見せてやろうと思う。