「あ、雪。」 大好きな大好きなあの野郎に会いに行く途中。 今日は寒いなぁ、何か吐く息が白い。いや、ここのところいつも白いけど、今日は一段と白いというか。 そんなことを思っていたら、ちらほら雪が降ってきた。 寒いのは変わらないけど、実感したらより寒いと思えてくるもので、寒いとつぶやきながら、マフラーに顔を埋める。 早く会いたいなぁ。 そして奴はきっと、コタツが出ているであろう部屋に丸まってテレビを見ていると思うから、あたしもその中に入るんだ。 狭い狭い狭い、もうちょっと向こう行けよ。って言いながら。おしくらまんじゅうするんだろうな。 あぁ、早く会いたいなぁ。ここのところ仕事が忙しくて会えなかったから、早く、早く会いたい。 自然に歩く早さもだんだんと早くなっていって、吐く息は相変わらず白かったけど、 息を吐くたびに、あの白いフワフワの頭を思い出して、歩く早さはさらに早くなった。 「あれ?さんじゃないですか?」 「あれ?新八くんじゃないですか。」 口真似をしてみる。大江戸マーケットの前で見慣れた顔とばったり会った。 眼鏡に青い袴、ぱっちりおめめの新八くん。みんな地味地味言うけど、まじまじ見ると可愛い、と思う。 あ、新八くん、耳宛してる。いいな。寒いもんね。 「これから銀さん家ですか?」 「うん。新八くんはー?」 「僕はこれから姉上とお昼ご飯の準備です。」 「そーか。そーか。少年よ大きくなれ。」 「意味不明です。さん。」 「じゃーねー。」 新八くんに向かって手を振って、歩き出す。 そんな格好で寒くないんですかー?大丈夫だよー!と大声で会話して、 あたしの足は、大好きなプーの家がある方向へと進んでいく。 「あー、アル!」 「こんにちは、神楽ちゃん。定春。」 温かそうな手袋をして、公園を走り回る神楽ちゃんと定春を見つけた。 相当走り回ったらしく、息切れをしていて、 そうかあたしも走っていけば温かくなるのかな、とちょっと考えて止める。 「何してるの?」 「雪なんてめずらしいネ!だから定春つれてきたヨ!」 「そーかそーか、よく遊びんしゃい。」 「は、さっさと銀ちゃんとこ行くアルよー。」 「はーい。」 定春をおっかけて、あたしに向かって手を振る神楽ちゃんに、あたしもまた手を振って。 しまった。手袋してくればよかったなぁ、なんて思いながら、吐いた息は相変わらず白くて、 あいつの頭も白い、そしてなんかフワフワしてるんだよなぁ。と一人で笑った。怪しい人になった。 そして、あたしの足は、大好きなプーの家があるほうへと進んでいく。 万事屋銀ちゃん。と心の中で看板の文字を読む。 この看板を見るたびに、いつもどこかほっとするあたし。そしていつも何故銀ちゃんなんだろうと考えるあたし。 別に、銀さん。でも銀時でも、坂田でもいいんじゃないのかな? でもそれはきっと、あたしが奴をそう呼んでいないから思うこと。 あたしの奴の呼び方は、今あげた、どれでもないから、さらに違和感。 カンカンと一段一段上るたびに音をあげる階段を、カンカンカンとリズムを崩さずに上っていく。 そこでふと思いつく、あたしは天才だ。 こんな音を立てて上れば、奴はあたしに気づいてくれるんじゃないかな。気づいてほしいな。 でも、寒い。雪がふっているから、今日はとてつもなく寒い。 おまけにあたしは、雪が降り出すなんて思ってもいなかったから、コートにマフラーだけ。 あぁぁ、新八くんや神楽ちゃんみたいに、耳宛とか手袋とかつけてくればよかったなぁ。 万事屋の柵に寄りかかって、引き戸式の玄関を見つめる。 きっと、きっと、中ではアイツがちゃんちゃんこ羽織ってコタツに入って暖をとっているんだろう。 今日行くよ、と連絡の一つでも入れておけばよかったんだろうか。 でも、お休み取れたときは驚かせようと思ってたからなぁ…。寒いなぁ。 インターホーンを鳴らして呼べばきっと、あいつはドアを開けて驚くんだろうけれど、 けれど、気づいて、くれたり、しない、か、な、? 気づいて、欲しい、なぁ、……。 ガラガラガラガラガラ、と目の前の戸が開く音なのに、何処か遠くに感じる。寒い。 あ、白いフワフワを頭に乗っけた長い何かが出てきた。寒い。 「ぅをおおおおおおっ!!?」 それはあたしのことを認識したとたんに、驚いて仰け反った。寒い。 失礼な、失礼な、お前がでてくんの遅いから悪いんだっ!!寒いんだっ!! 理不尽だって、わかってるけど、でも、でも…っ。 「ちょっ!お前、お前何やってんのっ!?何やってんのお前っ!?」 たいそう驚いた奴は、とたんにあたしの肩を掴むと、慌てた様子で、そう問いたのであった。昔話かっ!! うぅ…、お前に気づいて欲しかったから、ずっとここで待っていたのさ。悪いか!寒いわ! ずずずっ、と鼻水をすするあたし。眉間に皺をよせるコイツ。 「、お前すごい冷えてんじゃねぇか。」 「…銀。」 「あ?…つーか、お前、鼻も耳も真っ赤だぞ。」 「…銀。」 「なんでお前、いきなりこんなところでつっ立ってんだよ。」 右手で額を押さえて、ため息をつかれてしまった。 いや、我ながらわかっていますとも。どんなにお馬鹿なことをしているのかなんて。 困った顔をされる。眉毛が下がっている。困った顔より笑った顔のほうが好きだな、なーんて。 「銀。」 「?」 頬にそっと手を添えてくれる。心配させたかったわけじゃないけど。ごめん。銀。 あぁ、温かいなぁ銀は。なんて頭の片隅で思いながら。いや、でも、それより、 「寒い。」 「アホかアアアアアアアアアアアっ!!!」 怒鳴り声とともに拳骨までもが振ってきて。 あれ?何これ追い討ち?いや、確かに悪いのはあたしだけどさ。寒いの痛いの。 しゃがみこんで、寒さか痛みか、たぶんどっちにも耐えてる証拠に、微かに震えるあたし。 せっかく仕事が今日はないから、久しぶりに会えると思って、年甲斐にもなくすってんできたのに、あれ?来たか?、まぁ、来たのに、一番はじめに拳骨!?あれ?あたしいくつ!? 「ったくよぉ。来る時くらい連絡よこせ、馬鹿。」 「馬鹿って言ったほうが、馬鹿なんですー。」 「…インターホンも鳴らさずに人の家の前でずっと突っ立ってる奴は馬鹿じゃないっていうんですかー?」 「………だって。」 気づいてくれるかな、なんて思ったんだ。 何の連絡もなしに、合図もなしに、気が付いてくれたら、なんかそれはそれで運命かな、なんて思えたりしないかな、って。そう、思った。 「気づいて、くれるかな、って。」 やっぱ、駄目、でした? なんて、しゃがんだ状態から銀を見上げて、視線だけで問うてみる。 っう、と一瞬言葉につまった銀がいて、そのあとすぐにため息をつかれた。 「俺は、エスパーか。」 座ってないで立て、と腕を掴んで立たせてくれる。 掴まれた腕が、やっぱり温かくて、でも熱い気が、した。 そのまま玄関の中に引っ張られて、つんのめる様に家の中へとおじゃまする。 そして、あたしをポンと押し出して、玄関にて放り出すと銀は、ピシャン、と銀が戸を閉めた。 リビングというか、接客間というか、温かい空気が玄関まで届いてきたので、ストーブでも焚いているのだろうか、と思って呆けていたら、 「ったく、何時間外にいたんだっつーの。 めちゃくちゃ冷えてんじゃねーか、。」 後ろから、ぎゅ、と暖かい腕に包まれて。 あたしの、あたしの首筋に顔を埋める銀の吐息でさえも、温かくて。 「風邪ひいても知らねーからな。」 銀の手が、ぶらんと垂れ下がるあたしの手と重なって。すごく、すごく温かかった。 暫くそのまま固まっていると、す、と銀が体を離そうとした気配を感じて、 「おーい、ちゃーん?」 「あーーー…。」 「何その、風呂につかった親父みたいな奇声。」 あたしは身を翻して、銀の胸板に身を寄せる。そして暖をとる。 ポンポン、と背中を叩かれて、いいから上がれや。と促がされるけれど、 だけど、あたしはぎゅっと銀の首に腕をまわして。 「おーちーつーくー。」 「……しゃーねーなー、ちょっとだけだからな。」 そしたら、銀も、 だきしめて あたためて (耳宛なんかより、手袋なんかより) (もう温かいのか、熱いのか、わからないけど)
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